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スコットランドの蒸留地域は、大きく6つに分けられる。
アイラ、アイランズ、キャンベルタウン、ローランド、ハイランド、スペイサイドである。
地域の環境や歴史から特徴が見えてくる。
●スプリングバンク
・基礎データ、場所
- 蒸溜所名:スプリングバンク蒸溜所
- 英字:Springbank
- 意味:不明
- 創業:1828年
- 仕込み水:クロスヒル湖
- 蒸留器:ストレート型
- 現所有者:J.&A.ミッチェル社 (John & Archibald)
- 輸入元:(株)ウィスク・イー
スコットランド西部のキンタイア半島南端にあるキャンベルタウンの蒸溜所。
キャンベルタウンは現在3つの蒸留所しかないが、以前は30を超えていた。
スコットランドで蒸留地域が6つに分けられる内の1つにキャンベルタウンが入るのは、
かつてウイスキーの中心地として隆盛を極めていたからである。
キャンベルタウンでウイスキー造りの栄枯盛衰を越えてきたのがスプリングバンク蒸留所である。
・特徴
・味わい
スプリングバンク蒸留所では、ピート強度によって、商品を分けている。
ノンピートのヘーゼルバーン、中程度のスプリングバンク、ヘビーピートのロングロウである。
- スプリングバンク
2回半蒸留。
ライトピートで、甘く華やかな香り、そして塩味を感じる。 - ロングロウ
2回蒸留。
ヘビーピートの麦芽を使用し、オイリーでスモーキー、力強い味わい。
キャンベルタウンの昔ながらの味わいを再現した。
かつてキャンベルタウンにあった蒸留所名を使用。
ロングロウ蒸留所は、スプリングバンク蒸留所のすぐ隣にあった。 - ヘーゼルバーン
3回蒸留。
ノンピートの麦芽を使用し、軽めでまろやかな味わいに仕上げられている。
かつてキャンベルタウンにあった蒸留所名を使用。
ヘーゼルバーン蒸留所も、スプリングバンク蒸留所のすぐ近くにあった。
・伝統的製法と一貫生産
スプリングバンク蒸留所では、製麦から瓶詰までを自社内で行っている。
- 製麦
今ではほとんどされなくなったフロアモルティングを行っている。
他の蒸留所でもフロアモルティングを行っているところはあるが、
スプリングバンク蒸留所では使用する全ての麦芽をフロアモルティングしている。
他の蒸留所では一部をフロアモルティングして、
残りはモルトスター(製麦業者)から購入している。
自分たちでピート強度を自由に調整できるので、製品展開がしやすくなる。 - 蒸留
蒸留では、2回半という珍し方法をとっている。
2回半蒸留を簡単に言うと、2回蒸留と3回蒸留を混ぜているのである。
初留釜から出てきた蒸留液(ローワイン)の80%を、再留釜①→再留釜②と計3回蒸留し、
残りの20%を、再留釜②へ投入し、計2回蒸留し、これらを合わせて2回半蒸留になる。
スプリングバンクではこれを昔から行っている。 - 瓶詰め
そして、敷地内で熟成、瓶詰めまでを行う。
スプリングバンク蒸留所では自前の瓶詰め設備を持っている。
他の蒸留所では別の場所に熟成庫があったり、瓶詰めは関係会社に委託するところが多い。
もともとスコットランドでは、蒸留所では樽売りのみが許可されていた名残りで、
自前の瓶詰め設備を持っていない蒸留所がほとんどである。
・経緯
キャンベルタウンにはかつて30を超える蒸留所があったと言われている。
キャンベルタウンにある港からは、ウイスキーを積んだ船がアメリカへ出航し、
新規顧客獲得のために多くの蒸留所が生産を増やしていた。
しかし、アメリカでの禁酒法、第一次世界大戦、その後の大恐慌で、景気は悪化の一途をたどる。
アメリカでは禁酒法の中で、密造酒が出回り、安い酒が求められた。
キャンベルタウンも安い(粗悪な)酒を供給してしまったことが、後に致命傷となる。
低品質の噂は広まり、キャンベルタウンの名は地に落ちてしまう。
そして、経営が成り立たなくなった蒸留所が次々と閉鎖していく。
スプリングバンク蒸留所は無理に生産を拡大せず、昔ながらの製法で品質を維持し、
生き延びてきた。
このような経営判断ができたは、オーナーが一族による独立経営であったからかもしれない。
スプリングバンクは、ウイスキーの中心地とまで言われたキャンベルタウンの復興に力を入れている。
2004年にはグレンガイル蒸留所を復活させた。
今後の動向が気になるところだ。
●あとがき
どこのバーに行っても必ず置いてある、日本でも人気のスプリングバンク。
キャンベルタウンの歴史を知ると、今までとは一味違ってくるかも。
ヘーゼルバーンやロングロウと飲み比べるのもよい。
堅実なスプリングバンクにハズレなしである。