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マデイラワインの造り方の特徴は、加熱熟成という独特の工程にある。
マデイラワインの造り方を見てみよう。
●製造フロー
マデイラワインは以下の工程順で造られる。
発酵までは通常のワインと同じである。
- ブドウ栽培/収穫
- 除梗(じょこう)/破砕/搾汁
- 発酵
- 酒精強化
- 加熱熟成
- 熟成
①ブドウ栽培/収穫
マデイラ島でのブドウ栽培は、主に急斜面で行われる。
急斜面に作られた段々畑では、機械の導入が困難であり、
いまだにほとんどが手作業で収穫されている。
②除梗(じょこう)/破砕/搾汁
ブドウについている茎や果梗(かこう)も取り除く。
同時に、収穫したブドウを軽く潰すことで、果汁(モスト)を得る。
③発酵
得られた搾汁液(モスト)を容器に入れて発酵させる。
酵母は生産者によって、自然酵母だったり、培養酵母だったりする。
④酒精強化
発酵は、酵母がブドウの糖分をアルコールと二酸化炭素に分解して行われる。
糖分がすべて分解される前に、蒸留酒を加えて発酵(酵母の働き)を止める。
酵母はアルコール度数が高い環境では失活してしまうのである。
残された糖分のおかげで、ブドウの甘さが保たれる。
蒸留酒の添加タイミングによって、ワインの甘さや辛さが決まる。
添加されるのは、アルコール度数は96%のブドウの蒸留酒(グレープ・スピリッツ)である。
酒精強化の目的はいくつかある。
シェリーやポートと同様に、アルコール度数を高めることで、長い航海に耐えるため。
ワインが航海中に酸っぱくなってしまうのを防ぐために、スピリッツが足されたとされる。
または、過去にマデイラワインが過剰在庫を抱えた際に、保管場所を確保するため。
ワインを蒸留し量を減らし、その蒸留酒をワインに添加して保存性を高めたとされる。
⑤加熱熟成
マデイラワイン独特の工程が加熱熟成である。
他のお酒ではなかなか聞かない工程である。
発酵を終えたワインを加熱することで、急速に酸化を促すことが目的。
酸化が進むことで、酸味や甘味などが一気に凝縮される。
長期間の航海でワインが美味しくなったことを再現するために、
試行錯誤の末、加熱熟成という手法が生まれた。
現在行われている加熱熟成方法は主に2つある。
タンク内での人工的に加熱する『エストゥファ』と、
太陽熱を利用した自然加熱の『カンテイロ』である。
・エストゥファ(ESTUFA)
ステンレスタンクの壁面に巻かれた管にお湯を流し、人工的に温める方法。
ワインを45~50℃に保って、3ヵ月間熟成させる。
その後、ゆっくりと常温に戻される。
主に短期熟成品に使われる加熱熟成方法。
以前は、樽を置いた部屋ごと温めており、この部屋のことをエストゥファと呼んだ。
・カンテイロ(CANTEIRO)
ワインを木樽に詰め、倉庫の屋根に近い部屋で、太陽熱を利用して自然に温める方法。
常春の島といわれるマデイラ島の平均気温は約20℃。
この環境下でゆっくりと最低2年間、加熱熟成させる。
主に長期熟成品に使われる加熱熟成方法。
カンテイロとは、熟成用の樽の下に敷かれた角材に由来する。
⑥熟成
マデイラワインの多くはブレンドされて熟成される。
熟成最低年数は3年である。
長期熟成に向いているか、単一品種にできるかなどの判断がされて熟成に進む。
熟成の上限はなく、40年、50年以上のものや、長いものでは100年を超えるものもある。
●あとがき
マデイラワイン独特の加熱熟成は、他のお酒では聞いたことがない。
加熱のコストを考えると、九州南部や沖縄などでできそうな気がする。
実は日本酒で加熱熟成を行っているものがある。
秋田酒類製造の「高清水 加熱熟成解脱酒」である。
2017年から発売されているこの商品は、6カ月の加熱熟成を行っているようである。
ワインではないが、このような取り組みは、新しい可能性を生み出すので、期待したい。