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ラムに厳格な定義はない。
大枠として『サトウキビを原料とする蒸留酒』ということである。
ゆえにラムは自由度の高いお酒といわれる。
しかし、サトウキビを原料としていても生産国によっては、
ラムと呼ばないものもある。
例えば、ブラジルの『カシャッサ』や、ハイチの『クラレン』、
日本の『黒糖焼酎』などがある。
ラムについてとりわけ厳しく管理しているのがマルティニーク島である。
フランスのAOCを取得している。
マルティニークのAOCについて見てみよう。
●マルティニーク島のAOC
マルティニーク島はフランスの海外県である。
1635年にフランス人が入植して以降、一時イギリスに占領されることもあったが、
1946年に正式にフランスの海外県となった。
AOCとは、Appellation d’Origine Contrôléeの頭文字であり、原産地統制呼称である。
フランスでは、ワイン、チーズ、バターなどの製品に与えられる認証であり、
ブランデーやラムにも適用されている。
AOCの認定を受けるには、厳しい条件をクリアしなければならない。
条件を満たしているか検査するのは、国家機関の
INAO(フランス原産地呼称国立研究所)である。
AOC認証があることで原料や品質が保証され、付加価値がつき、他との差別化ができる。
ラムは自由度が高いからこそ、原料や製造工程を気にする人が多い。
変なものが入っていないか気になるのだろう。
・A.O.C. Martinique
マルティニーク島のラムは1996年にAOCを取得しているが、
認定を受けるには条件を満たす必要がある。
大まかな条件を以下に書き出す。
サトウキビの栽培・収穫
- サトウキビ栽培地域は許可された23の自治体のみ
- サトウキビの認定品種は約20種
- 年間4カ月以上の灌漑は禁止
- サトウキビの生長を促す物質の塗布は禁止
- 収穫は1月1日から8月31日までの期間限定
- 栽培収穫量は1ヘクタール当たり120トン以下
(世界では1ヘクタール当たり150トン収穫される地域もある。
マルティニーク島の平均収穫量は70トン程度。) - ・・・
簡単にいうと、
『マルティニーク島で栽培されたサトウキビを使わなければならない』
ということである。
発酵、蒸留
- 搾汁時の高温加熱は禁止
- サトウキビジュースの最低糖度は14°BX、最低pHは4.7であること
- 糖蜜やシロップの添加禁止
- 発酵槽は50,000リットルを越えない開放タンクを使用すること
- 発酵後のアルコール度数は3.5%以上であること
- 蒸留機はクレオールコラムを使用すること
- 蒸留時の精留は禁止
- 蒸留液のアルコール度数は65~75%であること
- ・・・
簡単にいうと、
『マルティニーク島で連続式蒸留機を使ったアグリコールラムでなければならない』
ということである。
単式蒸留器で蒸留したものはAOC認証が得られない。
セント・ジェームスの商品に、AOC適用外の単式蒸留ラムがある。
貯蔵、熟成
- Blan(ブラン):最低6週間貯蔵し、透明であること、島外瓶詰め可
- Élevé sous bois(ESB)(エルヴェ・ス・ボワ):最低1年オーク樽で熟成
- Vieux(ヴィユー)、VO(Very Old):最低3年、650リットル未満のオーク樽で熟成
- VSOP(Very Special Old Pale)、Réserve Spéciale、Cuvée Spéciale、Très Vieux:最低4年、650リットル未満のオーク樽で熟成
- XO(eXtra Old、Extra Vieux、Hors d’Age、Grande Réserve、Millésimés:最低6年、650リットル未満のオーク樽で熟成
- 砂糖の添加禁止
- 色微調整のカラメル添加はOK
- 瓶詰め時のアルコール度数は40~75%であること
- ・・・
簡単にいうと、
『マルティニーク島で貯蔵・熟成しなければならない』
ということである。
条件を満たし、AOC認証を得たラムにはボトルのどこかにAOCと書かれている。
どこに書かれているか探してみるのもよいだろう。
●あとがき
ラムが世界中で造られているのは自由度の高さゆえだろう。
熟成有り無し品が世界中で造られていることが素晴らしい。
同じ熟成有り無し品のテキーラはメキシコ限定である。
ウイスキーやブランデーはほぼ熟成有り品である。
ラムの裾野はこれからも広がる一方だろう。