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ウイスキーのことを知ると、さらに深く知りたくなる。
少し難しかったりもするが、一歩先の疑問に答える。
●ウイスキー疑問【中級編】
Q1 原料である大麦の種類は?
A1主に二条大麦が使われる
麦茶などに使われる六条大麦との違いは、デンプンの含有量が多いこと。
デンプンが多いことで、得られる糖も多くなり、
糖が多いと得られるアルコールが多くなる。
このため、デンプンの含有量が多い二条大麦が使われる。
Q2 なぜ大麦を発芽させるのか?
A2 デンプンを分解する酵素を得るため
大麦が生長するためにはデンプンを糖に変えて、
エネルギーとして使う必要がある。
芽はデンプンを糖に変える糖化酵素を作り出す。
この糖化酵素を利用して大麦麦芽を糖化する。
ちなみにアイリッシュでは、未発芽の大麦を大麦麦芽と混ぜて使うことがある。
Q3 フロアモルティングとは?
A3 伝統的な製麦方法
水を吸わせた大麦を床(フロア)に敷き詰める。
木製の大型シャベルで大麦を攪拌し、空気に触れさせる。
大麦が芽を出し、麦の半分以上の長さくらいに生長するまで、1~2週間攪拌し続ける。
現在、フロアモルティングを行っている蒸留所は少ない。
多くの蒸留所はモルトスターから大麦麦芽(モルト)を購入している。
Q4 モルトスターとは?
A4 製麦専門業者のこと
製麦を専門に行うため、専用装置を使い、大量に安定した品質のモルトを生産できる。
蒸留所は希望するモルトの品質を、オーダーメイドで依頼する。
自社で装置を用意したり、時間をかけるよりも、合理的である。
モルトスターでは、専用装置(ドラム式やサラディン式)を使い、自動制御で大量に製麦を行う。
ピートの強弱も、オーダー通りのフェノール値に仕上げる。
伝統的なフロアモルティングとは正反対の、効率重視で生産される。
ウイスキー以外にビール用のモルトも多く生産している。
Q5 フェノール値とは?
A5 ピート香の強弱を表す際に使われる値
ピート香が強いほどフェノール値は高くなる。
フェノール値の単位はppmであり、
目安だがライトピートでは10ppm以下、
ヘビーピートでは50ppm以上となる。
世界最強のヘビーピートはオクトモア07.1スコティッシュ・バーレイの208ppmと言われている。
Q6 なぜポットスチルには様々な形があるのか?
A6 望みの香り成分を取り出すため
ポットスチルの大きさや形状、ラインアームの向きなどは、
望む香り成分を取り出すために工夫されたものである。
香り成分は軽いものと重いものに分けられる。
これらの目指すバランスは、蒸留所によってさまざまである。
Q6-1 軽い/重い香り成分とは?
A6-1 エステル系と穀物系
軽い香り成分は、主にエステル系といわれるフルーツのような香りで、
軽快で爽やかな感じがある。
重い香り成分は、主に穀物、シリアルのような香りで、
リッチでしっかりとした感じがある。
これらは原料や発酵工程によっても、左右される。
Q6-2 蒸留で軽い香り成分を取り出すには?
A6-2 重い香り成分を落とす
軽い香り成分を得たい場合
- ポットスチルを大きくする
蒸気が上部へ到達する前に重い成分は液化しやすくなる。 - ランタン型にする
ネック部がくびれていることで、断面積が小さくなり、
蒸気の通過密度が高まるため、液化しやすくなる。 - バルジ型にする
バルジ部は空間が広がるため、蒸気が滞留し、温度が下がり、液化しやすくなる。 - ラインアームを上向きにする
ラインアーム内で液化したものが、ポットスチル下部に戻る。 - 蒸留速度を遅くする
蒸留速度が遅いと、ポットスチル内の温度差が大きくなる。
つまり、蒸気が液化しやすくなる。
Q6-3 蒸留で重い香り成分を取り出すには?
A6-3 液化による還流を抑える
重い香り成分を得たい場合
- ポットスチルを小さくする
蒸気が液化する前に上部へ到達するようにする。 - ストレート型にする
蒸気の上昇をスムーズに行わせる。 - ラインアームを下向きにする
ラインアーム内で液化しても、ポットスチル下部に戻らず、
冷却器に到達できるようになる。 - 蒸留速度を速くする
蒸留速度が速いと、ポットスチル内の温度差が小さくなる。
つまり、蒸気が液化しにくくなる。
Q7 ニューポットとは?
A7 蒸留によって得られた蒸留液
アルコール度数が70%程度ある。
熟成前のため、無色透明。
樽の影響を受けていない、原料や酵母由来の香りがする。
ニュースピリッツ、ニューメイクとも呼ばれる。
この段階ではウイスキーとして販売することはできない。
蒸留所見学や試飲会で飲める可能性がある。
Q8 樽の大きさは?
A8 700リットル以下
スコッチやジャパニーズ、カナディアンでは700リットル以下と定められている。
以下のような大きさの種類がある。
- バレル:180~200L
バーボンの熟成に使われるサイズのため、バーボンバレルとも呼ばれる。
容量が小さいため、熟成が早く進む。
(液体の体積当たりの、樽との接地面積が大きい) - ホグスヘッド:250L
一番多く使われているサイズ。
バーボンバレルや、シェリーバットをばらして、組み立てられる。
液体を入れた重さが豚一頭分に相当することに、名前の由来がある。 - バット:480L
シェリーの彫像用に使われるサイズのため、シェリーバットとも呼ばれる。
容量が大きいため、熟成がゆっくり進む。
(液体の体積当たりの、樽との接地面積が小さい)
700リットル以上の特大サイズや、100リットル程度の極小サイズはほとんど使われない。
運搬や漏れ、熟成速度の管理が難しく、現実的な生産には向かない。
Q9 ボトラーズとは?
A9 独立瓶詰め業者のこと
独立瓶詰め業者(インディペンデント・ボトラー)は、
蒸留所から樽詰めウイスキーを購入し、独自で熟成、ブレンドを行い、瓶詰めして販売する。
以前スコットランドでは、蒸留所が瓶詰めして販売することが許可されていなかった。
そのため、昔から瓶詰め業者が存在し、ウイスキーを販売していた。
現在でもボトラーズウイスキーは、オフィシャルと差別化されており人気が高い。
●あとがき
ウイスキーのことを深く知れば、次は蒸留所見学に行きたくなる。
実際の製造現場を見ることで、さらに知識は深まる。
現場の人の話を聞くことで、これまで得た知識が身に染みるのを感じるだろう。
そうなるとウイスキーがさらに美味しく味わうことができるようになる。