文字数:約1800文字
ごまを使って造られるお酒は世界でも珍しい。
ごま焼酎の歴史背景やつくり方、種類を紹介しよう。
●ごま焼酎の歴史背景
ごま焼酎の代名詞的な銘柄は『紅乙女(べにおとめ)』である。
紅乙女酒造がごま焼酎を開発し、世の中に広めた。
ごま焼酎が誕生する歴史を見てみよう。
ごま焼酎が誕生したのは1978年(昭和53年)である。
まず、福岡県久留米市の田主丸町(たぬしまるまち)にある老舗酒蔵に、
林田春野氏が嫁いだところから始まる。
当時は洋酒人気が高まる中、
「洋酒に負けない、香り高い酒を造る」をコンセプトにして開発が行われる。
色々な材料を試行錯誤するなか、ごま油を数滴加えた焼酎からは独特の臭みが消えることに気付く。
昔は現在の焼酎よりも臭みが強かった(その臭みが好きな人もいる)。
このことからごまの風味を活かた焼酎造りに取り組む。
しかしごまは脂質分が多く(約50%)、材料として使うのは簡単ではなかった。
行き着いたのは3段階で仕込みを行う製造方法である。
- 1次工程で酒母を造る
- 2次工程で酒母に水と主原料(麦)を加える
- 3次工程でごまを投入する
この製造方法によって、もろみにごまの風味をつけることができる。
そして蒸留は圧力を抑えた『減圧蒸留』で、ごまの強すぎない軽やかな風味を得る。
通常の圧力ではもろみは約100℃で沸騰するが、
紅乙女酒造の減圧蒸留では約45℃で沸騰させる。
関連記事 ↓
蒸留後は貯蔵庫で熟成させることで、丸みのある穏やかな味わいに変わる。
紅乙女酒造の貯蔵庫(熟成庫)は一般的なイメージとは違い、
ステンドグラスから光が入る、独特な環境である。
樽やタンクも高く積んだりせず、ゆとりを持った製造を心掛けている。
紅乙女酒造創業時の想いとして『百術不如一誠』がある。
百の術策も一つの誠意には及ばないという意味である。
このように紅乙女酒造のごま焼酎は丁寧に造られている。
ごま焼酎『紅乙女』を生産するために紅乙女酒造は1978年に創業した。
現在はごま以外にも、麦焼酎やリキュールなども手掛けている。
そして、紅乙女酒造に続き、ごま焼酎を製造するメーカーがいくつか出てきている。
●ごま焼酎の種類
ごま焼酎は大きく分けると2種類ある。
使用する原料が『白ごま』か『黒ごま』である。
白ごまは香ばしい風味に甘さがある。
黒ごまはコク深い風味を持つ。
せっかくなのでごま焼酎をいくつか紹介しよう。
・紅乙女ゴールド
酒屋さんでよく見かける紅乙女の主力商品である。
ごまの原料比率が20%以上で、長期貯蔵によるまろやかさとごまの風味が素晴らしい商品。
アルコール度数は43度あり、洋酒にも負けないしっかりした飲み応えがある。
『胡麻祥酎』と表記されているのは、
『祥』の字が「よろこび」や「めでたさ」を表すためとされている。
・紅乙女STANDARD
ごま焼酎の入門商品として最適な商品。
ごまの原料比率は10%以上で、アルコール度数は25度と一般的な焼酎と同様。
ふわっとごまの香りが広がる飲みやすい逸品。
・黒ごま焼酎 黒胡宝(くろごほう)
熊本県にある八千代不知火蔵で造られる、黒ごまを使った黒ごま焼酎。
2006年に黒ごまを使った初めての焼酎として、『黒胡宝』を発売。
黒ごまの原料比率は10%以上20%未満で、720ml当たり約36,000粒が使用されている。
アルコール度数は25度で、黒ごまの風味とコクが感じられる。
●ごま焼酎に健康効果はある?
ごまには多くの健康効果があることが知られている。
肝機能を高める、コレステロール値を下げる、肌や髪の健康保持など。
ごま焼酎でもこれらの効果は得られるのだろうか?
答えは『ノー』である。
残念ながらごまに含まれる栄養素は、蒸留することで焼酎に入らない。
しかし、本格焼酎には血栓を溶かす酵素を活発化させる働きがあることがわかっている。
本格焼酎の香りを嗅ぐだけでもその効果は得られる。
ごま焼酎の風味でリラックスし、さらに血栓溶解効果も得られるのである。
関連記事 ↓
●あとがき
ごまは世界中で消費されている。
お酒も世界中で造られている。
しかしごまを使ったお酒はほとんどない。
その理由はごまが脂質を多く含み、デンプンや糖分が無いからである。
お酒の歴史において様々な原料が使われてきたが、ごまはない。
ごま焼酎にしても、主原料ではなく、副原料としてでしか使えない。
最近ではクラフトジンのボタニカルとして使われているものがある。
世界中の人に知られている素材であるだけに、ごまを全面に出したお酒としてのポテンシャルは高いと感じる。
今後、ごま焼酎の海外展開の話を耳にする機会があるかもしれない。