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カクテル(Cocktail)の語源は正確にはわかっていない。
いくつかの有力な説があるが、どれも決定的な確証がない。
有力でない説も含めて紹介しよう。
有力な説とされているのが、『雄鶏の尻尾(Tail of cock)』である。
この説は3つある。
- かき混ぜ棒と勘違い
- 飾り尾羽
- 鶏の尻尾のような雑種馬
①かき混ぜ棒と勘違い
メキシコのユカタン半島にある港町カンペチェ。
そこに入港したイギリス船の船員が酒場を訪れる。
船員は酒場のカウンター内でお酒を混ぜていた少年に、
「それ(そのお酒)は何?」と尋ねる。
少年はかき混ぜ棒のことを聞かれていると思い、
スペイン語で「コーラ・デ・ガジョ(Cola de gallo)(雄鶏の尾)」と答えた。
木製のかき混ぜ棒の形状が雄鶏の尾の形状に似ていたのでこう呼ばれていたのである。
船員は英語で「テール・オブ・コック(Tail of Cock)」の意味だと理解する。
これによって、混ぜ合わされたお酒が「テール・オブ・コック」となり、
「コック・テール」は「カクテル」となった。
この説は、国際バーテンダー協会(I.B.A.)のテキストに記載されている。
②飾り尾羽
アメリカのある地域で、
「飲み物にアルコールが含まれることの印として、雄鶏の尾羽を挿す風習」
があった。
独立戦争の時代(1775~1783年)、独立軍を贔屓にしていた酒場でのこと。
女店主は反独立軍に夫を亡きものとされており、独立軍を援助していた。
ある日、女店主は反独立派の地主の敷地に忍び込み、雄鶏を盗み出した。
そしてその雄鶏を調理し、独立軍に振る舞った。
一緒に出したミックス・ドリンクには風習として、
雄鶏の尾羽を飾り、アルコールが含まることを示した。
このドリンクの評判が良く、雄鶏の尾羽から『Cocktail』と呼ばれるようになった。
③鶏の尻尾のような雑種馬
18世紀頃のイギリスでは、鶏の尻尾のように美しく流れるような曲線の尻尾を保つために、
尻尾の下の筋肉を切断された非純血種(雑種)の馬を『Cocktail』と呼んでいた。
逆に、非純血種(雑種)とわかるように、尻尾を切られた馬を『Cocktail(尻尾の短い鶏)』と呼んだ。
どちらにせよ、混ぜ合わせたもの(雑種)を『Cocktail』と呼んでいたことから、
混ぜ合わせたお酒を『Cocktail』と呼ぶようになったという説。
当時のイギリスの鶏の尻尾が長かったのか短かったのかはわからないが、馬も大変である。
●その他の説
『鶏の尻尾』説以外も紹介しておこう。
- 樽の栓から滴る一滴
- フランス語の『コクティエ』
・樽の栓から滴る一滴
「コック(cock)」には「栓」という意味がある。
よく「コック(栓)を閉める」などと言われる。
「テイル(tail)」はウイスキー蒸留などで後留部分をテイルと呼ぶ。
つまり、酒場にある樽の栓(cock)から滴り落ちる最後の一滴(尻尾、tail)を集めて混ぜ合わせたものを『cocktail』と呼んだという。
・フランス語の『コクティエ』
フランス人薬剤師のアントワーヌ・アメデ・ペイショーが、
ハイチからアメリカのニューオーリンズに移住し薬局を始める。
そこで特性の苦味系消化促進剤(ビターズ)を創作する。
このビターズと砂糖をコニャックに加えて、
エッグカップ(ゆで卵入れ、フランス語でコクティエ(coquetier))に入れて薬草酒として販売する。
その薬用酒は評判がよく、『コクティエ』と呼ばれ、
英語がなまり「カクテル」と呼ばれるようになった。
さらにこの薬草酒はカクテル「サゼラック」の原形である。
ちなみに、このビターズは世界で初めて商品化されたもの(1834年(レシピは1793年))とされており、日本ではあまり見かけないが現在も「ペイショーズ・ビターズ」として販売されている。
アンゴスチュラ・ビターズとペイショーズ・ビターズが世界を二分している。
●あとがき
お酒と何の関係もない鶏が、カクテルの語源として有力な説となっているのは面白い。
カクテルが広まり、卵の卵黄や卵白が使わることになると、お酒との関係も深まる。
さらに卵リキュールのアドヴォカートや、卵酒などもある。
メスカルには蒸留器内に鶏を吊るすものもある。
鶏を通じてお酒を考えてみるのも良いだろう。