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スコットランドの蒸留地域は、大きく6つに分けられる。
アイラ、アイランズ、キャンベルタウン、ローランド、ハイランド、スペイサイドである。
地域の環境や歴史から特徴が見えてくる。
6つの区分の中でもハイランドは最も広大な地域である。
それゆえに蒸留所がある場所も海岸、森林、山麓、平野などさまざまであり、
そこで造られるウイスキーに大きな影響を与える。
ハイランド地域は広大であるため、さらに東西南北の4つに分けられる。
北ハイランド、西ハイランド、東ハイランド、中央ハイランド(南ハイランド)である。
中央ハイランドと呼ばれるのはスコットランド全体で見た時に中央に位置するためである。
ハイランドとローランドは想定境界線として、
西のグリーノッグから東のダンディーを結ぶラインが一般的であるが、
厳密な定義や規定はない。
●ダルモア
・基礎データ、場所
- 蒸留所名:ダルモア蒸留所
- 英 字:Dalmore
- 意 味:川辺の広大な草地
- 創 業:1839年
- 仕込み水:アルネス川
- 蒸留器 :フラットトップのランタン型、ウォータージャケット付バルジ型
- 現所有者:エンペラドール・ディスティラーズ社
- 輸入元 :コルドンヴェール(株)
スコットランドの本土北東のクロマティ湾入り江の町アルネスある蒸留所。
蒸留所は丘の上にあるため、クロマティ湾を見下ろすことができる。
蒸留所周辺は、昔は鹿狩りで有名な地域であった。
ダルモアのボトルには雄鹿がトレードマークとして飾られている。
この雄鹿は蒸留所を所有していたマッケンジー家の紋章である。
1263年、スコットランド王アレクサンダー3世がハンティングの際に鹿に襲われたところを、
マッケンジー家初代当主コリン・オブ・キンテールが救ったのであった。
この功績により王から雄鹿の紋章が授与された。
12(トゥエルブ)ポイントのロイヤルスタッグは、マッケンジー家が蒸留所を所有した際に、
ボトルに飾られることになり、現在に至る。
12ポイントというのは、鹿の角に12点に枝分かれしていることを指す。
確かにボトルの鹿の角は左6点、右6点で計12点に枝分かれしている。
これは鹿が雄として成熟したことの証である。
・特徴
・味わい
ハイランドらしいノンピートであり、まろやかさとフルーティーさがある。
ほどよいコクもあり、飲み応えがあるのは特殊なポットスチルの影響なのだろうか。
・ウォータージャケット付きポットスチル
ダルモア蒸留所のポットスチル(主に再留釜)には、ウォータージャケットが付いている。
ウォータージャケットは、ポットスチルのネックからヘッドにかけて巻かれてる冷却器のことである。
写真の手前のポットスチルのバルジ(ボール)の上部分がウォータージャケットである。
銅で作られており、内部に水を通すことで、ポットスチルの熱を冷ます効果がある。
ポットスチル内の蒸気は、冷やされることによって液化し、再び釜底に戻る。
つまり還流を促して、軽い香りの成分(主にフルーティーさ)を得ている。
・ダルモア蒸留所歴史
ダルモア蒸留所は1839年に貿易商であるアレクサンダー・マセソンが創立した。
マセソンは蒸留所の運営権をリース(貸し出し)し、運営者は何度か交代した。
そして地元の名家であるアンドリュー・マッケンジーが1865年に借り受け、
ウイスキー事業を軌道に乗せる。
アンドリューは弟チャールズを呼び寄せ、1867年に蒸留所の運営権を買い取る。
この時期にマッケンジー家の家紋である雄鹿がボトルに飾られるようになった。
兄弟はホワイト&マッカイの創始者であるジェームズ・ホワイト、
チャールズ・マッカイと親交があり、ホワイト&マッカイのブレンドに、
ダルモア蒸留所の原酒がキーモルトとして使われている。
その関係は長年続き、1960年にマッケンジー社とホワイト&マッカイ社は合併することになる。
その後所有者は何度も変わり、現在はフィリピンのスピリッツメーカーである、
エンペラドール・ディスティラーズ社が所有権を持っている。
所有者は変わっても、ホワイト&マッカイのキーモルトがダルモア蒸留所の原酒であることは変わっていない。
●あとがき
シングルモルトスコッチの中でも、ダルモアは高級な銘柄に位置付けられている。
過去のオークションで史上最高額を付けたボトルもある。
最近でもラグジュアリーなボトルを発表し続けている。
蒸留所には長い歴史があり、長期熟成されてる樽が多く眠っている。
長期熟成されたものはコレクターズアイテムとして投資の対象にもなっている。
これからもまだまだ豪華なボトルが出てくるだろう。