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スコットランドの蒸留地域は、大きく6つに分けられる。
アイラ、アイランズ、キャンベルタウン、ローランド、ハイランド、スペイサイドである。
地域の環境や歴史から特徴が見えてくる。
6つの区分の中でもハイランドは最も広大な地域である。
それゆえに蒸留所がある場所も海岸、森林、山麓、平野などさまざまであり、
そこで造られるウイスキーに大きな影響を与える。
ハイランド地域は広大であるため、さらに東西南北の4つに分けられる。
北ハイランド、西ハイランド、東ハイランド、中央ハイランド(南ハイランド)である。
中央ハイランドと呼ばれるのはスコットランド全体で見た時に中央に位置するためである。
ハイランドとローランドは想定境界線として、
西のグリーノッグから東のダンディーを結ぶラインが一般的であるが、
厳密な定義や規定はない。
●トマーティン
・基礎データ、場所
- 蒸留所名:トマーティン蒸留所
- 英 字:Tomatin
- 意 味:ネズ(ジュニパーベリー)の木の茂る丘
- 創 業:1897年
- 仕込み水:オルタ・ナ・フリス(自由の小川)
- 蒸留器 :バルジ型
- 現所有者:宝酒造(株)、丸紅(株)、国分グループ本社(株)
- 輸入元 :国分グループ本社(株)
スコットランドの北ハイランド地域南部に位置する蒸留所。
標高300mを超える丘の上に建てれており、
ゲール語でトマーティンとは「ネズの木の茂る丘」を意味する。
杜松(ネズ)の実はジュニパーベリーのことだが、蒸留所でジンは造っていない。
・特徴
・味わい
トマーティン蒸留所の商品はトマーティン(Tomatin)と、
ク・ボカン(Cù Bòcan)の2つに分かれる。
トマーティンはノンピート麦芽を使用しているが、
仕込み水がピート層を通っているため、微かにピート香がある。
やさしい甘さがあり、まろやかでバランスが良い。
ク・ボカンはピーテッドモルトを使用している。
程よいピート香とスモーキーさ、柑橘系の香りが絶妙。
ク・ボカンとは、ハイランド地方で語られる伝説の魔犬である。
トマーティン蒸留所では、1年の大半をノンピート麦芽で生産している。
ク・ボカン用のピーテッド麦芽は冬の1ヵ月ほどしか生産していない。
よってク・ボカンは少量生産であることがわかる。
・過去にスコットランド最大級の生産量を誇った
1897年に創業し、閉鎖や所有権移譲があったが、
1909年には2基の蒸留器で年間22.5万リットルのアルコールを生産していた。
その後、増産・拡張を繰り返し、最盛期(1970年代)には23基の蒸留器を所有し、
年間1,250万リットルのアルコールを生産することになる。
当時のスコットランドでは一、二を争う生産量である。
そのほとんどがブレンデッド用であった。
しかしウイスキーブームが衰退すると、経営は難しくなり、
1980年代には蒸留所が閉鎖されてしまう。
・日本企業所有第一号のスコットランド蒸留所
1986年に宝酒造(株)と大倉商事(株)が蒸留所を買収する。
これが日本企業がスコットランドの蒸留所を初めて所有した出来事である。
宝酒造(株)は1971年のスコッチウイスキーの輸入自由化に伴い、
トマーティン蒸留所と提携している。
トマーティン蒸留所の原酒を使い、日本市場向けの「BIG”T”ゴールド」を販売する。
このような関係から買収の話につながるのである。
大倉商事の持株は丸紅(株)が所有することになり、
さらに国分グループ本社(株)も加わり、現在も日本企業による所有は続いている。
シングルモルトのトマーティンやク・ボカンは国分グループ本社(株)が取り扱い、
ブレンデッドのアンティクァリー(ANTIQUARY)とタリスマン(THE TALISMAN)は、
宝酒造(株)が取り扱っている。
宝酒造から提供された焼酎樽を使って熟成させたク・ボカンもリリースされたことがある。
最盛期には蒸留器が23基もあったが、現在は12基しか稼働していない。
年間の生産量も100~200万リットルであり、量から質への転換が進む。
●あとがき
かつて大量のウイスキーを生産していたトマーティン蒸留所には、
今も当時の設備の多くが残されている。
蒸留所見学ツアーでは、使っていない設備に触れることもできるし、
マッシュタンの中に入ることもできるという。
とても貴重な経験の場として、古い設備が活用されている。
ウイスキー生産を深く理解できる、他にはない蒸留所である。