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梅酒は主に以下の3つの原料でできている。
- 梅
- 砂糖
- お酒
梅酒とは字の通り、梅のお酒である。
ここでは梅酒に使われる梅の種類について説明しよう。
●梅の種類
現在登録されている梅の種類は400種以上あり、
未登録の雑種などを含めると1000種以上あるとされている。
梅は交雑しやすく、種類を正確に把握することは難しい。
観賞用に育成される梅を「花梅(はなうめ)」、
果樹として育成される梅を「実梅(みうめ)」という。
登録されている実梅は100種ほどあり、
そのなかでも梅酒に使われる代表的なものを紹介しよう。
・南高(なんこう)
梅酒として使われるもっともメジャーな品種。
その多くが和歌山県で生産されている。
大粒で、果皮は薄く、種は小さいため、果肉が厚い。
もともと梅干しによく使われており、紀州南高梅干しは最高級品である。
「紀州みなべの南高梅」は地域団体商標制度に認定されている。
南高梅は「なんこうばい」ではなく、「なんこううめ」と呼ぶのが正しい。
-南高の話-
南高梅の誕生について紹介しよう。
南高梅発祥の地は和歌山県日高郡みなべ町である。
南高梅の始まりは江戸時代まで遡る。
紀州藩主 徳川頼宣(よりのぶ)の時代(1619年頃)、南部(みなべ)の地の農民は、
米が育ちにくい痩せた土地で、年貢を納めるのに苦しんでいた。
この地を治める田辺藩主 安藤帯刀(たてわき)は、地域に自生するやぶ梅に着目し、
梅栽培を振興推進する。
やぶ梅を献上することで、年貢を軽減し、さらに出来の良い梅が江戸で評判となる。
紀州田辺産の梅は人気となり、梅の生産は大いに盛り上がる。
しかし明治15年(1888年)頃には、生糸の需要が拡大するにつれて、
梅の木は桑の木に取って代わられることとなる。
養蚕産業が全盛の時代も梅の品種改良が続けらる。
明治35年(1908年)に上南部村(現・南部町)村長の長男 高田貞楠(さだぐす)が
実生苗60本から育てた梅の中に、大粒で美しい紅色の実をつける木を見つける。
この木を母樹として育て、南高梅の基となる「高田梅」が生まれる。
昭和40年(1965年)には、梅優良母樹選定委員会の委員長であり、
南部(みなべ)高校教諭でもある竹中勝太郎(かつたろう)が、
園芸科の生徒と共に高田梅の調査研究を5年間行い、
優良品種を「南高梅」として名称登録する。
南部高校の略称である南高から「南高梅(なんこううめ)」と名付けられた。
昭和48年(1973年)には、旧・南部川村にうめ課が発足される。
うめ課は梅に関する研究や、梅振興館の運営、梅の情報発信などを行っており、
発足から半世紀を迎えた。
・白加賀(しらかが/しろかが)
全国的に育成されているが、特に関東地域で多く栽培されている。
江戸時代から栽培が始まったとされる。
梅酒や梅干しなどオールマイティーに使われる品種。
大粒で、果皮はやや厚く、果肉も厚い。
少し酸味がある。
・古城(ごじろ/こじろ)
実の美しい色から「青いダイヤモンド」とも称される品種。
実がしっかりしており、肉厚で、エキスをたくさん含んでいる。
和歌山県で多く栽培されていたが、人気の南高梅に切り替える農家が増えている。
そのため、生産量が減り、希少性が高まっている。
・豊後(ぶんご)
豊後の名前からわかる通り、発祥は大分県である。
寒さに耐性があり、東北地方での栽培が盛ん。
このため、他品種よりも収穫時期が遅いため、旬の後半でも入手できる。
大粒で、肉厚、酸味は少ない。
酸味が少ないのは梅とアンズの交雑種であるためと考えられている。
・鶯宿(おうしゅく)
昔からある品種で、伝統的な古来種。
奈良県や四国、九州で主に栽培されている。
実は大きく、しっかりとしており、爽やかなフルーティーさがある。
-鶯宿の話-
11世紀の歴史物語「大鏡(おおかがみ)」に、鶯の宿る梅の木の話がある。
清涼殿の梅の木が枯れたので、村上天皇が代わりの木を探すように命じる。
運び込まれた梅の木には以下のような歌が結び付けられていた。
『勅なればいともかしこし鶯の 宿はと問はばいかが答へむ』
訳:天皇の命で木を差し出すことは名誉だが、
鶯が来て「私の梅の木はどこだろう?」と尋ねたら、
どう答えれたよいだろうか
この歌を書いたのは紀貫之(きのつらゆき)の娘 紀内侍(きのないし)である。
これを読んだ天皇は申し訳なく思い、木を返したという話。
ちなみに『梅に鶯』という言葉があるが、
意味は、滅多にない取り合わせ、美しい調和など、
縁起の良いこととされている。
・竜峡小梅(りゅうきょうこうめ)
長野県で自生していた小梅。
天竜川が切り開いた渓谷「天竜峡」から名付けられた。
小粒だが、種も小さいので、相対的に肉厚になる。
粒揃いが良いため、カリカリ梅にもよく使われている。
・紅映(べにさし)
福井県の特産梅。
熟すにつれて表面が紅色に染まることからこの名が付けられた。
皮は薄く、種が小さいので、果肉の量が多い。
実はやわらかく、繊維は少なめなのが特徴。
・藤五郎(とうごろう)
新潟県で栽培されている主要品種。
江戸時代後期からの歴史がある。
大粒で皮は薄いが、エキスは多く、やや酸味がある。
梅酒以外にも梅干しにも使われており、新潟米との相性は抜群。
・梅郷(ばいごう)
東京都青梅市の原産品種。
春には青梅市で吉野梅郷梅まつりが開催される。
大粒で、種が小さいため、果肉量が多い。
他品種よりも香りが強め。
●梅の熟度
一般的に梅酒に使うのは青梅である。
梅は熟すにしたがって、緑→黄→紅と色が付く。
ちなみに梅干には熟した梅が使われることが多い。
梅酒に青梅が使われる理由は、酸味と硬さである。
青梅を使うことで梅酒の特徴であるすっきりとした酸味を得ることができる。
梅が熟して軟らかくなると、梅酒がにごる原因となる。
透きとおったキレイな琥珀色に仕上げるには、青梅のほうが適している。
最近は完熟梅を使った梅酒も多く見かけるようになった。
完熟梅はフルーティーな香りと、甘くまろやかな味わいを梅酒にもたらす。
また、にごり梅酒というものもある。
スーパーなどで売っているものの多くが青梅である。
自宅で完熟梅を使って梅酒作りをしたいなら、青梅を追熟させるのもアリである。
買ってきた青梅をザルなどに並べ、風通しの良い場所に数日置けば黄熟する。
日が当たると紅色になるものもある。
全体が黄熟して、甘い香りが漂ってくれば追熟完了。
●あとがき
ここで紹介した以外にも梅の品種は多くあり、
市販の梅酒を購入する時は、どの品種が使われているかチェックするとよい。
また、自身で作る時にも梅の品種にこだわってみるのもよい。
今はネットでいろいろな品種の梅を購入できる。
取り揃えて、品種の違いを楽しみながら、飲むのも楽しいだろう。