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日本で昔から飲まれている薬膳酒に忍冬酒(にんどうしゅ)というものがある。
忍冬酒がどのようなお酒なのか、素材や歴史を含めて紹介しよう。
●忍冬酒(にんどうしゅ)とは
忍冬酒とは生薬の一種である忍冬(にんどう)をメイン素材とした薬膳酒である。
発祥は江戸時代の浜松地域とされている。
徳川家康も忍冬酒を飲んだという逸話も残っている。
・忍冬(にんどう)とは
そもそも忍冬とは何なのだろうか。
生薬や漢方薬では「忍冬(にんどう)」または「金銀花(きんぎんか)」と呼ばれ、
和名では「スイカズラ」である。
スイカズラは漢字で「吸葛」と書く(スイカは関係無い)。
それぞれの名前の由来は以下である。
- 忍冬:冬にも葉を落とさず寒さに耐え忍ぶことから
- 金銀花:茎のわきに白い花を2つ咲かせるが、片方が黄色い時があることから
- スイカズラ:花筒の中に蜜があり、この蜜を吸って味わうことから
忍冬という植物は、スイカズラ科スイカズラ属の蔓性低木である。
生育地は日本全国の平地、丘陵地、低山帯など。
開花時期は4~6月くらいまで。
生薬で厳密には忍冬と金銀花は分けられている。
「忍冬」は葉がついたままの茎を乾燥させたもの。
「金銀花」は花蕾を乾燥させたもの。
忍冬の効能は、鎮痙、利尿、抗炎症、抗菌作用、解熱、解毒、神経痛など。
金銀花も同様の効能があるが、抗菌作用はさらに強いとされている。
忍冬酒には忍冬も金銀花も両方だったり、片方だったりが使われている。
忍冬酒に忍冬以外のどのような素材を使うかにもよるが、
忍冬酒の効能としては忍冬の薬効成分+α(プラスアルファ)ということになる。
ちなみに忍冬の学名はロニセラ(Lonicera japonica)だが、
ハーブリキュールやジンのボタニカルで使われていることはほとんどない。
・忍冬酒の歴史
忍冬酒には400年以上の歴史がある。
発祥の地は浜松で、徳川家康と関わりがある。
徳川家康が三河の岡崎から浜松に移ったのは元亀元年(1570年)である。
浜松の蔵元であり、薬草研究も行っていた神谷権兵衛が、
忍冬を酒に浸け込んでつくった薬膳酒を家康に献上することがあった。
家康はこのお酒を気に入り、慶長元年(1596年)、神谷権兵衛に褒美として、
名刀「來国俊(らいくにとし)」、金五枚、居宅地拝領のお墨付きを与える。
将軍に認められたお酒として忍冬酒の名は全国に広まり、
忍冬を浸けたお酒が各地でつくられるようになった。
元禄10年(1697年)に日本の食物全般について書かれた『本朝食鑑』には、
忍冬酒が紀陽(紀州徳川家)、伊勢、肥後、筑後でつくられていたことが記されている。
- 紀陽:丁子(クローブ)や肉桂(シナモン)などを焼酎に混ぜた辛口
- 伊勢:金銀花、茨の花を味醂(米麹、焼酎で醸す)に浸ける甘辛口の濃厚なもの
- 肥後、築後:甘みが強いリキュールのようなもの
忍冬酒の元祖とされる神谷家がつくるものは、
太平洋戦争の影響により昭和18年(1943年)に製造中止となった。
しかし平成9年(1997年)に地元浜松の有志によって復活される。
神谷家とは別に江戸時代から現代まで絶やさずに
『荵苳酒(にんどうしゅ)』をつくり続けている酒蔵がある。
慶長2年(1597年)に尾張の地に創業した小島醸造である。
小島家2代目当主・弥次左衛門が朝鮮侵攻に参加した際、
加藤清正から清酒に荵苳を加える朝鮮風の製造法を教えてもらったという。
神谷家の浜松忍冬酒とは文字もレシピも異なる。
●現代の忍冬酒
今現在、販売されている忍冬酒は3つある。
- 浜松忍冬酒
- 尾張荵苳酒
- 大神神社(おおみわじんじゃ)忍冬酒
①浜松忍冬酒
神谷権兵衛がつくった元祖忍冬酒を復活させたもの。
復活後、三度リニューアルし、製造は愛知県碧南市の角谷文治郎商店で行っている。
みりん(もち米、米こうじ、本格焼酎)に忍冬(スイカズラの茎葉)を浸けたリキュール。
みりんを使っているので甘口。
- 原料:スイカズラ(忍冬)、もち米、米こうじ、本格焼酎
- 度数:14%
- 購入:浜松の酒販店、ネット通販
②尾張荵苳酒
小島醸造が400年以上つくり続けているもの。
みりん(米、米こうじ、醸造アルコール)に荵苳(スイカズラの花)を浸けたリキュール。
エキス分は14度で、みりんを使っているので甘口。
- 原料:スイカズラ(花)、米(国産)、米こうじ(国産米)、醸造アルコール
- 度数:24%
- 購入:小島醸造、電話注文
③大神神社(おおみわじんじゃ)忍冬酒
奈良県の三輪明神 大神神社(おおみわじんじゃ)で、
4月の『鎮花祭(ちんかさい/はなしづめのまつり)』で季節限定授与品となっているもの。
三輪山の忍冬と狭井神社(さいじんじゃ)のご神水を使ってつくられている。
鎮花祭は二千年前から執り行われている疫病除けの古神事であり、
全国に知られた『薬の祭典』でもある。
古来霊薬の一つである忍冬と百合根が供えられる。
- 原料:スイカズラ(忍冬)、ご神水、???
- 度数:???
- 購入:鎮花祭授与品
●あとがき
現在、忍冬酒は3つしかなく、飲む機会は少ない。
ならば自分で浸けてみるのも薬膳酒の醍醐味である。
ネットで生薬の忍冬も金銀花も購入できる。
お酒は清酒、焼酎、みりん、ウォッカなど好みのものを使えばよい。
さらに素材を追加して自身に合った効能につくり上げることもできる。
江戸の時代を思いながら色々考えてみるのも楽しいだろう。