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●国柄 [パブで香り豊かなエールを楽しむ ]
イングランド、アイルランド、スコットランドなどでそれぞれにエールのスタイルがある。
パブの国イギリスではエール(上面醗酵ビール)がよく飲まれている。
日本のビールは主にラガー(下面発酵ビール)。
華やかな香りのエールを常温に近い温度でゆっくりと、パブで飲むのが定番。
有名なギネスビールはアイルランドのビールで、同様のスタイルの別銘柄もある。
●種類 [多種多様なエール]
エールとは15~25℃で発酵する上面発酵酵母を使ったビールの総称。
酵母の働きが活発なので華やかな香りを持つのが特徴。
中世以前から飲み続けられているエールは、歴史の浅いラガー(下面発酵)よりも種類が多い。
以下、イギリスの代表的な種類の一部を記述する。
◆エール(上面発酵)
・イングリッシュスタイル・ペールエール
ホップの苦味とフルーティーな香りの、黄金色から銅色の中濃色ビール。
17世紀にイギリス中部の町、バートン・オン・トレントで造り出された。
「色の淡いエール」という意味で、濃色ビールが標準だった時代に新たな流れを起こした。
・イングリッシュスタイル・ブラウンエール(アンバーエール)
ホップの苦味は弱く、麦芽(モルト)の香ばしさのある、茶色、褐色のビール。
ペールエールに対抗して、イギリス北東部の町、ニューキャッスルで造られるようになった。
・イングリッシュスタイル・IPA
IPAとはインディアペールエールの略。
18世紀末、イギリスからインドに船でビールを運ぶ際、
腐敗防止のためアルコール度数を高くし、大量のホップが投入された。
そのため、ホップ由来の苦味と香りが非常に強く際立っている。
・スコティッシュエール
苦味は少ない褐色のビール。ブラウンエールととても良く似た特徴。
違いは造り方にあり、ブラウンエールは褐色麦芽だけで仕込むが、
スコティッシュエールは淡色麦芽と濃色麦芽を混ぜて造られる
・ポーター
麦芽の濃厚な味わいが魅力の濃色ビール。
18世紀に流行っていた3種類のビールをブレンドして提供していたのを、
はじめからブレンドして造られたビール。
3種類はペールエールやブラウンエールなどで、スリー・スレッズと呼ばれていた。
・スタウト
真っ黒になるまで焦がした麦芽を使った黒ビール。
濃厚な味わいで、苦みが強い。
「ギネスビール」はアイリッシュスタイル・ドライスタウトというスタイル。
・バーレーワイン
バーレーは「大麦」の意味で、ワインに対抗して造られたビール。
そのため、ワイン並みにアルコール度数が高く(7.5~12.0%)、
長期熟成(6カ月以上)もされていてフルボディ。
●パブ [ゆっくりとした時間を楽しむ社交場]
パブとはパブリックハウスの略。
イギリス国内には約6万件のパブがあるといわれ、ビールをパブで飲む習慣が根付いている。
パブでの過ごしかたは、まわりの人との会話を楽しんだり、
ひとりのの時間に浸ったりと様々だが、共通するのは1パイント(568ml)のビールを
時間をかけてゆっくり味わうことだ。
ゆっくり時間をかけれるのは常温で飲むエールだからこそで、
ラガーではぬるくなってしまう。
イギリスでのパブとエールは最適解なのだろう。
●カスクコンディション
[リアルエール、本場でしか味わえない魅力]
カスクコンディションとは、カスク(樽)の中で二次発酵を行ってビールの状態を整えること。
ビールは醸造所で造られた後、ろ過や熱処理をせれずにカスクに詰められ、
酵母が残ったまま店まで運ばれる。
カスク内で二次発酵が続いたまま店で管理され、飲みごろに開栓されるが、
この飲みごろの見極めは店側の腕に委ねられる。
1980年代、大手メーカーの市場独占によって、伝統的な「樽で熟成する古典的エール」は
生産中止に追い込まれた。
そこで「古典的なエールを守ろう」と4人のジャーナリストの間で結成された消費者団体が、
CAMRA(Campaign for Real Ale)である。
伝統的なカスクコンディションのビールを「リアルエール」と定義し普及に務めた彼らの取り組みは、
多くの市民の賛同を受け、古典的なエールは復活することになる。
この運動は最も成功した消費者活動のひとつだという。
●あとがき
実はイギリスでもラガーが半分以上を占めているのが現状。
ラガーの勢いは世界的な潮流であるが、それでもエールの比率がここまで高い国は他にはない。
各国でクラフトビールが造られるようになり、エールのほうがより個性を出しやすく、
ラガー一辺倒の流れが見直されつつあると感じる。
ビールに限らず、お酒をゆっくり味わい時間を大切にしたい。