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ビール大手4社の中でもっとも新商品を多く発表しているサッポロ。
酒類以外にも食品飲料のポッカは誰もが知る名前だろう。
そんなサッポロの売上やその内訳、株価などの数値をグラフに可視化することで、
一目で深く理解することができる。
お酒を中心にデータを見てみよう。
データはサッポロが公開しているものを使用した。
●サッポロホールディングス売上と利益
サッポロHDの2017年から2023年の連結売上と営業利益のグラフである。
酒類の収益は酒税込みのデータである。
連結売上はパンデミック前から減少傾向にあったが、
2020年のパンデミックで大きく減少する。
しかしその後V字回復を見せ、2023年はパンデミック前の水準を超え、
連結売上収益(酒税込み)が5,186億円となった。
一方、営業利益は2020年に大きく減少したが、
2021年に一時的に大きく膨らみ、2022年以降は緩やかな回復を見せ、
2023年の営業利益は118億円となった。
2021年の回復は投資不動産の売却益によるところが大きい。
次に連結売上の内訳を見てみよう。
・連結売上内訳
2023年の酒税込み連結売上の内訳グラフである。
売上の73%を占めるのが酒類である。
23%を占めるのが食品飲料、4%が不動産となっている。
食品飲料はポッカレモン、ポッカコーヒー、
じっくりコトコトシリーズのスープなど、よく知られている。
不動産で有名なのが東京の恵比寿ガーデンプレイスや、
札幌のサッポロファクトリー、サッポロガーデンパークなどがある。
酒類はビール類、ワイン、スピリッツなどを扱っている。
酒類の細かい内訳を見てみよう。
・国内酒類売上金額内訳
2023年の酒類売上金額の内訳を表したグラフである。
大きく分けるとビール類、ワイン、RTD、スピリッツ、ノンアルとなる。
ビール類が全体の四分の三にあたる75%を占める。
ワインは4%、RTDは10%、スピリッツは11%、ノンアルは1%である。
さらに細かく分けると、ビール類はビールと発泡酒・新ジャンルに分かれ、
ワインは国内と輸入、スピリッツは洋酒と和酒に分かれる。
全体の59%を占めるビールが主軸であるとわかる。
発泡酒・新ジャンルは16%を占め、第二の柱である。
次いで多いのがRTD10%である。
そして和酒(焼酎など)7%、洋酒(ウイスキー、ジン、ラムなど)4%と続く。
輸入ワイン2%は国内ワイン1%の倍ほどである。
サッポロは世界の大手酒類メーカーであるバカルディと業務契約をしている。
バカルディ商品である洋酒の売上が大きい。
ラムのバカルディ、ジンのボンベイ・サファイア、ウイスキーのデュワーズ、
ウォッカのグレイグースなど有名なブランドばかりである。
イギリスのDrinks Internationalによると、
ブランドの2023年世界販売数ランキングは以下である。
かなり強力なブランドであることがわかるだろう。
- バカルディはラム部門第2位
- ボンベイ・サファイアはジン部門第4位
- グレイグースはウォッカ部門第11位
- デュワーズはスコッチ部門第6位
国内ワインについては、経営資源集中のため2025年に、
グランポレール勝沼ワイナリーの閉鎖と、長野古里ぶどう園の閉園が決定している。
国内ワインの販売は続けるようだが、今後の展開が気になるところである。
また、那須工場の稼働停止も2025年3月末と決まっている。
那須工場は小ロット製品の製造能力強化を目的に、多種多様な製品を製造してきた。
今後は他の工場で商品の製造と供給を行っていくとされているが、
これまでのようなペースでの新商品展開はしないのかもしれない。
・酒類海外販売数量
2023年の海外酒類販売数量ベースでのマップである。
サッポロが事業展開している国は約105カ国である。
圧倒的な販売数量なのがカナダであり、61%を占める。
2006年にサッポロはカナダ第3位のビールメーカーである
SLLEEMAN BREWERIES LTD.を完全子会社化している。
日本でスリーマンのビールを見ることはほぼない。
マニアックな輸入ビールを扱うお店にはもしかしたら置いているかもしれない。
次いでアメリカが27%である。
つい最近の話であるが、2022年にStone Brewingを完全子会社化している。
Stoneが保有する2つの工場でサッポロブランドの製造も行っている。
ストーンのビールは日本に輸入されているので、飲むことができる。
ちなみに2017年に完全子会社化したアメリカのアンカー社は2023年に解散した。
事業改善中にパンデミックがあり、立て直しが困難な状況になったためである。
アンカー社を継承したなどの話はまだ聞かない。
そしてアジア・オセアニア・欧州を合わせて12%である。
日本のビールメーカーとして初めてベトナムにビール工場を建設したのがサッポロである。
2011年の工場建設により、サッポロブランドの製造を行い、
ベトナムから東南アジアに向けて販売を展開している。
ベトナム産のサッポロビールを日本で見かけることはほぼない。
もしかしたらベトナム料理店に置いているかもしれない。
●ビール類の販売量
公開されているデータからビール類の販売データを詳しく見てみよう。
・ビール類の販売量 推移
ビール類全体では減少傾向にあることがわかる。
パンデミックで減少した反動の回復はあるものの、減少傾向は止まらない。
単位は1ケース633ml 20本(=12.66L)である。
発泡酒・新ジャンルの減少が目立つが、
主力の黒ラベル、ヱビスも伸びが重い。
そんな中、その他のビールが大きく増加している。
その他のビールにはラガーやソラチ、
地域限定のクラシック、風味爽快ニシテ、静岡麦酒、
ネット限定のホッピンガレージなどがある。
酒税法が改正されて発泡酒・新ジャンルが減少するのはわかるが、
ビールに追い風のはずが、イマイチ伸びが強くないのが気がかりである。
・ビールの販売量内訳
2023年のビール販売量内訳である。
黒ラベルが53%を占め、ヱビスが22%。
この2ブランドで全体の3/4を占めている。
今後その他のビールの伸びによって、
割合が大きく変わってくるかもしれないので、注目したい。
●財務関連デ-タ
難しい言葉がたくさん出てくるので、データを眺める程度にしておこう。
・資産と負債及び資本
この2つはサッポロHDの連結財政状態計算書をグラフにしたものである。
財政状態計算書とは、資金の調達源泉と運用形態を示すもの。
国際財務報告基準IFRS(International Financial Reporting Standards)に準ずる計算書であり、
厳密には違いがあるが日本基準の貸借対照表(バランスシート)にあたる。
・キャッシュフロー
注目するのは大きな変動のあった2021年以降である。
2021年は資産売却を行ったことで大きく変動している。
そして2022年にアメリカStone社の買収が影響している。
2023年にはパンデミック前の水準に戻りつつある。
Stone社が持つ2工場でサッポロブランドの製造し、
どのように販売を拡大するのかに注目したい。
●サッポロホールディングスの株価 推移
サッポロホールディングスの株価推移の月足グラフである。
2022年の中頃から上昇しはじめ、この3年で3倍以上になっている。
以下のような要因が考えられる。
- 投資ファンド3D Investment Partnersの関与による経営改革への期待
- 不動産含み益への注目
- 事業戦略の見直しと成長への期待
- Stone Brewingとの連携
ちなみにサッポロホールディングスの株主優待は、ビールや食品・飲料水などがある。
3年以上の長期保有株主は、非売品の『サッポロ セレクション』を選べる。
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●あとがき
サッポロの株価が大きく上昇している。
株価の上昇は投資家の期待の表れである。
一方で経営改革による資源の集中により、工場、ワイナリー、ぶどう園が閉鎖される。
経営上仕方のないことなのだが、お酒に関わる施設が閉鎖されるのは何とも言えない気持ちになる。
今後の経営改革によって生まれる新たなお酒に期待したい。