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図解■ 日本酒の吟醸香が向かう先『どこまでフルーティになるのか』

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文字数:約1900文字

 海外で日本酒の人気が広まりつつある。
日本酒の香りがフルーティであることが人気の一つでもある。
吟醸香といわれる香りにフルーティさの秘密がある。
数値をまじえて、日本酒の香りについて見ていこう。

吟醸香(ぎんじょうこう/ぎんじょうか)とは

 簡単にいうと吟醸香とは日本酒がもつフルーティな香りのことである。
特に吟醸酒は吟醸香がはっきりと感じられるものが多い。

 吟醸香は酵母が発酵する過程で生成するエステル類の香りが主である。
エステル類の香りの中でも酢酸イソアミルカプロン酸エチルが二大吟醸香と呼ばれたりもする。
酢酸イソアミルはバナナのような芳醇な香り、
カプロン酸エチルはリンゴのような爽やかな香りをもたらす。

 最近では日本酒にフルーティな香りを求める人が増えている。
この2つの香気成分(酢酸イソアミルとカプロン酸エチル)のデータを見てみよう。

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日本酒(吟醸酒類)の香気成分 推移【市販品】

日本酒(吟醸酒類)の香気成分 推移【市販品】グラフ

 このグラフは国税庁が調査しているデータを基にした。
日本酒の中でも『吟醸』と付く、純米大吟醸、純米吟醸、大吟醸、吟醸酒が対象である。
2019年度以前と2020年度以降で集計対象製造者を変更している。
・2019年度以前:都道府県ごとに課税移出数量が多い製造者
・2020年度以降:課税移出数量が多く、かつ全国的に営業活動される製造者

 リンゴ様の香り成分であるカプロン酸エチル増加し続けている
一方、バナナ様の香り成分である酢酸イソアミルは一定を保っている

 酒造りで狙った香りを得るのはそう簡単なことではないのだが、
それを手助けする酵母が開発されたことが、大きく影響している。

カプロン酸エチルを多く生成する酵母

 現在主流のカプロン酸エチルを多く生成する酵母は、
公益財団法人 日本醸造協会が提供する『きょうかい1801号(以下K-1801)』である。
このK-1801は、K-1601(高エステル生成少酸性泡なし酵母)と、
K-9(短期醪で華やかな香りと吟醸香が高い泡あり酵母)の交雑によって育種された。

 以下がK-1801の主な特性である。

  1. 酢酸イソアミル、カプロン酸エチルの高生産性(K-1601の40~50%増)
  2. イソアミルアルコール(ムレ香成分の前駆物質)が各種きょうかい酵母®中で最小
  3. 発酵力が強い(K-7、9、701、901並)
  4. 酸度が少ない(K-1601並)
  5. 酵母の識別が容易(汚染チェック、もろみ管理などに便利)

 K-1801は2006年(平成18年)から提供が始まったのだが、
それ以前はK-1601がカプロン酸エチルを生成する酵母の主流だった。
K-1601は1992年(平成4年)の実用である。
つまり、1992年頃はまだ日本酒のフルーティな香りの魅力が広まっていなかったのだろう。

K-1801酵母を使った日本酒

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新酒鑑評会に使用された酵母【2022BY】グラフ

 このグラフは新酒鑑評会に出品された日本酒に使用された酵母の内訳である。
K-1801が3割以上を占めてダントツで使用されていることがわかる。
次いで多いの明利も優れた吟醸香を造り出す酵母である。

 2022BYとは酒造年度が2022年度のことを表し、
2022年7月から2023年6月30日までに製造されたということである。

 では、このカプロン酸エチルの上昇はどこまで続くのだろうか。
そのヒントが全国新酒鑑評会にある。

日本酒の香気成分 推移【新酒鑑評会】

 独立行政法人 酒類総合研究所が開催する全国新酒鑑評会は、
第1回が1911年(明治44年)に開催されており、2025年(令和7年)が113回目となる。
酒蔵見学に行くと、めちゃくちゃ古い鑑評会の賞状が飾られていることがよくある。
多くの酒蔵は毎年この新酒鑑評会用のお酒を仕込んでおり、入賞、金賞を目指している。
鑑評会で入賞すると、その製造法は通常品造りにも反映されるだろう。

日本酒の香味成分 推移【新酒鑑評会】グラフ

 このグラフは新酒鑑評会での香気成分の推移である。
カプロン酸エチルは上位に入賞しているほうが高い値であることがわかる。
これはカプロン酸エチルの値が高いほうが入賞しているということになる。
ただし、カプロン酸エチルのみではなく、バランスが重要なのは言うまでも無い。
酢酸イソアミルは全体平均と上位入賞酒平均に大きな差はない。

 カプロン酸エチルの数値に注目すると、市販品に比べて鑑評会用のほうがかなり高い
しかし、7.0~9.0mg/Lの範囲で高止まりしている。
これはお酒の風味、味わいの最適なバランスがこの辺りなのだと考えられる。
ちなみに、これまでの新酒鑑評会でカプロン酸エチルの最高値は16.7mg/Lである。

 現在の上昇傾向にある市販品のカプロン酸エチルは3.8mg/Lくらいである。
鑑評会用が7.0~9.0mg/Lくらいなので、そこまでは上昇しないにしても、
市販品はまだ上昇する余地がある。
ただし、繰り返しになるが重要なのはバランスである。
今ある酒蔵からカプロン酸エチルが高いだけのお酒を売り出すことはおそらくないだろう。
あとは消費者の好みの問題となる。

 鑑評会用のお酒を飲みたい人は、毎年開催される日本酒フェアに参加するよいだろう。
各酒蔵のお酒を飲み比べると違いがわかりやすい。

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あとがき

 何事にも流行り廃りはあるもので、日本酒のリンゴのような爽やかな香りが今の流行りなのだろう。
現在はマスカットやライチ、桃などの香りを生成する酵母も開発されている。
今後は一つの香りを際立たせるのか、複層的に厚みのある香りにするのか、、、
香りを変えるなら、味わいも合わせるようにしなければ、薄っぺらいお酒になってしまう。
日本には多くの酒蔵があり、千差万別の日本酒が造られている。
変わった香りや味がするものもあり、自分好みの日本酒を探し求めるのもよいだろう。

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