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テキーラに革新をもたらしたのがドン・フリオである。
ドン・フリオによってプレミアムテキーラという高価格帯の商品が広まったのである。
そして現在も革新を続けるドン・フリオを解説する。

●ドン・フリオの基本情報
- 英 字 :Don Julio
- 創業年 :1942年(ドン・フリオの販売は1987年)
- 創業者 :Julio González-Frausto Estrada
(フリオ・ゴンザレス=フラウスト・エストラーダ) - 創業地 :ハリスコ州ロス・アルトス
- 製造販売:ディアジオ社
- 日本取扱:ディアジオジャパン(株)
- NOM :1449
ドン・フリオのドン(Don)はスペイン語で男性に対する敬称である。
創業者であるフリオ・ゴンザレスの名前を冠したブランドである。
日本酒で杜氏の名前を日本酒名に付けるのに似ている。
●フリオ・ゴンザレスの足跡
伝説の男と称えられるフリオ・ゴンザレスの足跡を辿ってみよう。
どのようにしてテキーラを造り上げてきたのだろうか。
・17歳で事業を興す
フリオ・ゴンザレスが生れたのは1925年、メキシコのハリスコ州である。
1940年15歳の時に一家の大黒柱である父親が亡くなる。
そしてテキーラ造りを生業とする叔父ホセ・ゴンザレスのもとで働き始める。
2年後の1942年、テキーラ製造の知識と技術を身につけたフリオ・ゴンザレスは、
地元の実業家にテキーラ造りの情熱を伝えて融資を得る。
得た資金で「春」を意味する「ラ・プリマヴェーラ蒸留所」を買収し、
若干17歳でテキーラ事業を興すこととなる。

9年後の1951年にミクストテキーラ『トレス・マゲイヤス(Tres Magueyes)』を製造する。
原料となるアガベの生長には時間がかかり、フリオ・ゴンザレスは
しっかりと成熟したものを使うと決めていたのである。
2010年から日本でも販売されていたが、現在は生産していない。
・『ドン・フリオ』ブランド発売
フリオ・ゴンザレスは毎日アガベ畑を見回り、一つ一つを丁寧に育て、
成熟度を見極めて収穫する。
良質なアガベから、トレス・マゲイヤスを造り続けて30年以上が経過した頃、
フリオ・ゴンザレスは60歳を前にして脳梗塞で倒れる。
懸命のリハビリよって容態は回復に向かい、快気祝いと60歳の誕生祝いに、
息子たちから特別なテキーラを贈られる。
このテキーラはパーティーの参加者にも振る舞われ、
あまりにも素晴らしい味わいは大絶賛を得る。
周囲からの強い要望により、2年後の1987年に『ドン・フリオ』の名で発売される。
ドン・フリオは高価格帯のプレミアムテキーラという需要を開拓したのである。
当時、市場に出回わるテキーラの大半がミクストであった。
市場が安価なテキーラを求めていたのである。
100%アガベテキーラはコストが高くなるため、
家族向け(ファミリーリザーブ)や私的用(プライベートストック)だった。
そもそもメスカルの一分類であるテキーラは100%アガベが先にあり、
ミクストが後から市場経済に合わせて造られるようになったのである。

ドン・フリオは当初レポサドのみだったが、
1996年にブランコとアネホをラインナップに加える。
さらに1999年にはテキーラ業界初となる樽熟成3年以上の
エクストラ・アネホ『ドン・フリオ レアル』を発売する。
2002年に創業60周年を記念して『ドン・フリオ 1942』を発売。
フリオ・ゴンザレスは2003年に現場を引退する。
現場を任されたエンリケ・デ・コルサによって、2012年に創業70周年を記念して、
アネホをフィルターにかけて透明にしたアネホ・クラロ『ドン・フリオ 70』が発売される。
日本では未販売。
アネホ・クラロ(クリスタル・アネホ)をきっかけにして、
テキーラの新たなジャンル『クリスタリーノ』が登場する。
そして、フリオ・ゴンザレスは2012年87歳で亡くなる。

ドン・フリオが販売数を伸ばし始めたのは、1999年にシーグラム社の投資によって、
アガベ農園を拡張できたことにある。
その後、紆余曲折あり、2014年にディアジオ社がドン・フリオ社を完全子会社化する。
ドン・フリオが世界一、二位を争う販売量を誇るのは、
ディアジオ社の戦略によるところが大きい。
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●ドン・フリオのこだわり
伝説の男フリオ・ゴンザレスのこだわりを紹介しよう。
強いこだわりはアガベ栽培とボトルにある。
・アガベ栽培のこだわり

フリオ・ゴンザレスは創業の地であるロス・アルトス地方アトトニルコ地区で
アガベを自社栽培している。
標高6500フィート(約2000m)に位置するハリスコ高原で栽培は行われる。
アガベ栽培のこだわりは、アガベ一株一株の間隔を広くすることにある。
通常の間隔は1mくらいだが、さらに広くすることで一株が多くの栄養を摂れるようになる。
面積当たりの栽培量は減るが、品質の高いアガベが栽培できる。
・ボトルのこだわり

『ドン・フリオ』ブランドの発売にあたり、
フリオ・ゴンザレスがこだわったがボトルである。
背の高いボトルをテーブルに置いた時、周りの人の顔が見えなくなるため、
ボトルを低くずんぐりしたものをデザインした。
テキーラを飲み交わす時に、相手の顔が見えないのはナンセンスということである。
プレミアムテキーラであるドン・フリオを追うように、
背の低いボトルは他の多くのメーカーでも採用されることとなる。
フリオ・ゴンザレスの信念に敬意を表して、メイン商品は背の低いボトルである。
記念商品や、変わり種商品は背の高いボトルが使われている。
背の高いボトルのほうが高級感を演出しやすいのだろう。
オーナー企業の戦略である。
・その他のこだわり
他にもこだわりがある。
アガベの球茎ピニャは伝統的な石造りの窯でゆっくり加熱される。
近代的な大型圧力釜での時短はしない。
発酵には自社開発の酵母を使い、26時間かけてじっくり待つ。
蒸留は銅の精留器を付けたステンレス製の単式蒸留器で2回蒸留される。
熟成は通常中古のバーボン樽が使われる。
●ドン・フリオ製品ラインナップ
日本では2024年8月に最上位の『ウルティマ リセルヴァ』が加わり、
5種が販売されている。
ちなみにメキシコやアメリカでは9種が販売されている。
以下が、ラインナップと参考価格(税込)、アルコール度数である。
すべて750ml。
- ドン・フリオ ブランコ 38% ¥ 5,500
- ドン・フリオ レポサド 38% ¥ 7,500
- ドン・フリオ アネホ 38% ¥10,000
- ドン・フリオ 1942 38% ¥22,000
- ドン・フリオ ウルティマ リセルヴァ 40% ¥85,000
・ドン・フリオ ブランコ

熟成のないテキーラなので、原料由来の風味がしっかりしている。
ストレートやロックも良いが、炭酸で割ったり、カクテルにしてもおいしい。
・テイスティングノート
色 :透明色
香り :レモン、ライムなどの柑橘系の芳香
味わい:フレッシュアガベの甘味と辛味
ボトル:薄水色の、やわらかな丸みのあるボトル
ラベル:ラベルにはシボレーのトラックが描かれている
創業間もない頃に、フリオ・ゴンザレスがアガベの運搬や、
テキーラの販売に使用した思い出のトラックである
現在も蒸留所にはシボレートラックが置かれている
・ドン・フリオ レポサド

アメリカンホワイトオーク樽で8カ月間熟成したテキーラ。
レポサドは規定で2カ月以上の熟成が必要だが、ドン・フリオは8カ月間熟成している。
しっかり熟成させることによって樽由来の風味と、
原料であるアガベの風味が絶妙なバランスで成り立っている。
ドン・フリオの発売当初はレポサドのみだった。
・テイスティングノート
色 :麦わら色
香り :シトラス、バニラ、スパイスの香り
味わい:アガベ、バニラ、はちみつ
ボトル:落ち着きのあるオレンジ色の、上部が丸い四角柱のボトル
ラベル:ラベルには蒸留所の入り口が描かれている
ボトルの形も蒸留所の入り口を表しているのだろう
・ドン・フリオ アネホ

アメリカンホワイトオーク樽で18カ月間熟成したテキーラ。
1年半の熟成によって樽由来の風味が強まっているが、アガベ由来の味わいも健在である。
・テイスティングノート
色 :黄金色
香り :ライム、グレープフルーツ、キャラメルの香り
味わい:ほんのりアガベ、バニラ、バタースコッチ、はちみつ、スパイス
ボトル:赤茶色の、四角柱のボトル
ラベル:ラベルには積まれた熟成樽が描かれている
樽を描くことで、熟成させたテキーラであることを強調しているのだろう
・ドン・フリオ 1942

アメリカンホワイトオーク樽で30カ月間熟成したテキーラ。
創業60周年記念に開発された製品が『1942』であり、
1942年の創業年を称えている。
・テイスティングノート
色 :琥珀色
香り :チョコレート、キャラメル、やさしい樽香
味わい:ほのかにアガベ、チョコレート、バニラ、トロピカルフルーツ、スパイス
ボトル:高級感のあるダークブラウンカラー
細長い円錐形の正面を切り取ったデザインのボトル
ラベル:ラベルには『1942』と大きく描かれている
フリオ・ゴンザレスが創業した年である1942年を称えている
・ドン・フリオ ウルティマ リセルヴァ

バーボン樽を使用し、ソレラ・システムで36カ月間熟成。
フィニッシュにマデイラワイン樽を使用。
分類としてはエクストラ・アネホとなる。
ソレラ・システムとは、一番古い樽から出荷し、減った分を二番目に古い樽から補充し、
二番目の減った分を三番目から補充し、、、という仕組みである。
創業80周年を記念して開発された製品であり、
フリオ・ゴンザレスが最後に関わった畑のアガベが使用されている。
2006年に畑を開拓して、アガベの成熟に6~8年、樽熟成で3年を要した。
フリオ・ゴンザレスは2012年に亡くなっているので、このテキーラを味わっていない。

本国メキシコとアメリカでは2021年に発売され、
日本では2024年から販売が開始された。
・テイスティングノート
色 :輝きのあるアンバーゴールド
香り :焼いたオーク、キャラメル、アプリコット、オレンジ
味わい:なめらかなはちみつ、アガベシロップ
ボトル:クリスタルのような透明の円錐ボトル
ボトルキャップはアガベの球茎ピニャがデザインされている
ボトル底部もピニャをイメージさせるカッティングが施されている
フリオ・ゴンザレスが最後に関わった畑のアガベを使っていることを
表しているのだろう
●あとがき
ドン・フリオはテキーラを革新する存在である。
プレミアムテキーラの市場開拓、業界初のエクストラ・アネホ、
アネホをフィルタリングするクリスタリーノなど。
クリスタリーノは賛否両論あるが、面白い試みである。
ウイスキーやブランデー、ラムにも広がるだろうか。
実は焼酎では色規制により昔からフィルタリングしており、こちらも賛否両論ある。
生涯をテキーラに捧げたフリオ・ゴンザレスのことを知ると、
ドン・フリオがより一層おいしく感じる。