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スコットランドの蒸留地域は、大きく6つに分けられる。
アイラ、アイランズ、キャンベルタウン、ローランド、ハイランド、スペイサイドである。
地域の環境や歴史から特徴が見えてくる。
●オーヘントッシャン
・基礎データ、場所
- 蒸溜所名:オーヘントッシャン蒸溜所
- 英字:Auchentoshan
- 意味:野原の片隅
- 創業:1823年
- 仕込み水:カトリン湖
- 蒸留器:ランタン型
- 現所有者:ビームサントリー社
- 輸入元:サントリースピリッツ(株)
スコットランドのローランド地域西部、グラスゴーの北西に16キロにある蒸溜所。
商工業で発展してきた都市グラスゴーの街はずれにある、都会の蒸留所。
ローランド地域の伝統的な製法を、かたくなに続けている。
・特徴
・味わい
ライトでドライでオイリー、ローランドの伝統的な味わい。
3回蒸留することで、クリアで繊細に仕上げている。
クセがなく、飲みやすいため、スコッチ入門酒として人気がある。
・3回蒸留
オーヘントッシャンでは、3つの蒸留器を使って3回蒸留を行っている。
初留釜のウォッシュスチル、中留釜のインターミディエイトスチル、再留釜のスピリッツスチル。
まず初留釜で18度ほどに蒸留され、中留釜で54度に濃縮され、再留釜で81度まで高められる。
他の蒸留所の通常商品は2回蒸留で70度前後、
スプリングバンク蒸留所の3回蒸留品ヘーゼルバーンでは74度程度である。
オーヘントッシャンは極端に度数を高めていることがわかる。
・経緯
職を求める移民は都市部に集まる。
スコットランドの主要都市であるエジンバラもグラスゴーも、ローランドにある。
アイルランドからの移民により建てられてた蒸留所の多くは、
アイリッシュウイスキーに倣って、3回蒸留を基本としたウイスキー造りを行った。
大都市のあるイングランドでは、クセの強いアイラモルトなどは敬遠され、
3回蒸留のローランドモルトの飲みやすさが受け入れられた。
しかし、連続式蒸留機の発明により、安価でクリアなグレーンウイスキーが現れる。
さらにほど良い飲み口のブレンデッドウイスキーが誕生する。
ローランドモルトは、飲みやすさ、価格、個性のすべての面で、中途半端な存在となってしまう。
蒸留回数を2回にして個性を出したり、グレーンウイスキーに切り替えたり、
ジン用のスピリッツを造ったりして、延命を試みるが多くの蒸留所は閉鎖に追い込まれた。
ローランドの蒸留所が手本としたアイリッシュウイスキーも同様に、
グレーンやブレンデッドの誕生により優位性を失ったことと、
販売戦略を誤ったことで失墜することになる。
ちなみに同じ3回蒸留であるローランドとアイリッシュの違いは、
アイリッシュは麦芽以外に穀物(未発芽の大麦、小麦、ライ麦など)を混ぜていることである。
スコッチの基本は大麦麦芽(モルト)のみを使用することにある。
ただし、現在ではアイリッシュも大麦麦芽のみの製品があるので、本質的な違いはなくなっている。
●あとがき
オーヘントッシャンは、伝統を守り続けることが個性になるという良い例だと思う。
周りの多くの蒸留所が閉鎖する中で、その環境に耐え続けるだけの力があったからこそである。
伝統を守り続けると書いたが実は逆で、続けたことが伝統になったのではないだろうか。