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酒精強化ワインや、アル添酒の名を聞いたことがある人は多いだろう。
酒精強化もアルコール添加も醸造酒の製造途中に蒸留酒(スピリッツ)と添加する。
ワインと日本酒で呼び方が違うだけではない。
それぞれを比べて、違いを見てみよう。
●酒精強化とアルコール添加の比較表
代表的なものとしてスペインのシェリーと本醸造タイプを比較する。
・発祥時期
イベリア半島に蒸留技術が伝わったのは、アラブの支配下にあった9世紀頃とされる。
その後、13世紀頃にワインは長期の海運輸送に耐えられるように、
アルコール度数を高めるようになった。
日本酒造りでは雑菌による腐造(酸っぱくなる)が度々起きていた。
その対策として17世紀頃(江戸時代初期)に焼酎(蒸留酒)を添加することで、
アルコール度数を高め、雑菌の増殖を抑えた。
・添加タイミング
シェリーは発酵が終わった後にスピリッツが添加される。
発酵後というのは、糖分がアルコールにほとんど分解されたことを意味し、
つまり、辛口の味わいに仕上がる。
日本酒は発酵の終盤に醸造アルコールが添加される。
日本酒の規定でもろみを搾った後に添加すると、日本酒と名乗れなくなる。
・添加前アルコール度数
シェリーは通常の白ワインと同様の5~12%程度である。
日本酒のもろみは20%前後である。
他の醸造酒に比べて日本酒は最高クラスのアルコール度数を誇る。
・添加用アルコール原料
シェリーにはブドウ由来のスピリッツ(蒸留酒)が使われる。
それ以外の原料のものは禁止されている。
日本酒には醸造アルコールというものが使われる。
醸造アルコールとは、国税庁によって以下のように定められている。
『でんぷん質物又は含糖質物を原料として発酵させて蒸留したアルコールとする』
デンプン質の原料とは、米、サツマイモ、トウモロコシなどである。
含糖質の原料とは、サトウキビの廃糖蜜、甜菜の糖蜜、精製糖蜜などである。
サトウキビ由来の醸造アルコールが添加に使われることが多い。
・添加用アルコール度数
シェリーに使われるグレープスピリッツは96%である。
日本酒に添加される醸造アルコールは96%程度のものを30%前後に下げて使われる。
当初は焼酎を使用していたため、その名残の度数ということだろう。
・熟成期間
シェリーは最低2年の熟成が必要と決められている。
日本酒は一般的には熟成させない。
例外として古酒などがある。
・最終アルコール度数
シェリーは酒精強化され、熟成の後に15~22%となる。
ブレンドによる調整はされるが、加水は基本的にしない。
日本酒はアルコール添加後の工程を終え、加水されて最終的には15%前後となる。
アルコール添加されたものは度数が高いと勘違いしている人もいるが、
商品としては純米タイプと度数は変わらない。
・目的
スペインで造られたワインは多くがイギリスに輸出された。
スペインからは海運輸送でイギリスに運ばれるが、劣化を防ぐために度数が高められた。
そして酒精強化されたワインは大航海時代に、世界中に広まった。
三大酒精強化ワインとしてシェリー以外に、ポルトガルのポートワインやマデイラワインも
船での長旅に耐えられたため、新大陸など様々な国や島で飲まれるようになった。
シェリーと同様に日本酒も腐敗劣化防止が目的だが、他にも重要な目的がある。
香りを際立たせることと、味わいをスッキリさせることである。
香り成分は水よりもアルコールに溶けやすいため、
アルコールを添加して度数を上げることで、
多くの香りを溶け込ませることができる。
また、無味無臭に近い醸造アルコールを添加することで、
味わいをスッキリさせることで料理に寄り添うことができる。
日本酒はアルコール添加することで原料由来の香りを際立たせ、
シェリーは酒精強化することで樽由来の香りを受け取りやすくする。
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●あとがき
ワインと日本酒ではそもそもの目的は腐敗劣化防止で同じだが、
添加後の工程が大きく異なる。
シェリーは酒精強化によって最終製品の度数が高まるが、
日本酒はアルコール添加後に加水して度数を下げている。
それぞれの進化がこの先交わることがあるのか気になるところである。